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学びのすすめ
 
  土屋 裕睦 教授  
  1989年筑波大学大学院体育研究科修了。中国留学後、筑波大学体育科学系技官・助手を経て現職。
スポーツカウンセリングルームカウンセラー。日本スポーツ心理学会理事。認定スポーツメンタルトレーニング指導士。 著書に「スポーツメンタルトレーニング教本」他。
 
         
  スポーツでは「心・技・体」が重要と言われる。
とりわけ競技のレベルが高くなると、あとは精神力の勝負と言われる。しかし、技術や体力の練習に比べて、「こころ」のトレーニングはおろそおかになりがち。
また心理的な問題を抱えて力を発揮できない選手も少なくない。

これらの要請にこたえるのが「スポーツカウンセリング」である。わが国で初めて「スポーツ心理・カウンセリングコース」を開設した、大阪体育大学土屋裕睦氏に聞く。
   
         
         
 
 
アスリートに対する心理的サポート
 

「試合になると緊張してしまって力が出せない」と言って、ある選手(Aさん)が私の相談室に来ました。このような選手の悩みに対応するのがスポーツカウンセリングです。さて、みなさんがスポーツカウンセラーなら、どのように対応するでしょうか。
 
こころの問題は目に見えないので、解決策もすぐには見つかりません。競技場では、「もっとリラックスしろ!」と怒鳴りつける指導者がいたり、「根性をつけるためにうさぎ跳びを100回!」と命じるコーチがいたり。
果たしてこのような指導で本当に精神的に強くなるのでしょうか?少なくとも指導者に「リラックスしろ!」と怒鳴られてリラックスできる選手は、まずいないでしょう。リラックスするためにはリラックスする「スキル」(技術やテクニック)が必要だからです。

現在、スポーツ心理学という学問領域では、メンタルトレーニングに関する研究が活発になされています。メンタルトレーニングとは、つまり「こころのトレーニング」。
試合で実力を十分に発揮するための、さまざまなスキルを学ぶことを言います。この例では、呼吸法や漸進的筋弛緩法のようなリラックスのスキルをマスターすることで、緊張する場面でも、適切に心身を落ち着かせることができるでしょう。これらのスキルを学ぶのがメンタルトレーニングです。
 
         
         
 
 
カウンセリングマインドの重要性
 

スポーツ心理学の研究が進むにつれ、さまざまなメンタルトレーニングの方法が開発されてきました。リラックスする方法、やる気や自信を高める方法、そして集中する方法・・・等など。そしてそれらを選手に教えることで、心・技・体のバランスの取れたアスリートの育成が可能となります。

またそれらを選手に伝えるときに、選手の気持ちや立場を理解し、尊重することがとても大切であることもわかってきました。それをカウンセリングマインドと言います。

たとえば、先の例でAさんに対して、「緊張してしまうのは良くないので、リラックスする方法を身につけなさい」というのは簡単です。でも「リラックスしたほうが良いのは分かっているんだけど、でもできないんです」と悩んでいる選手は少なくありません。

そこでAさんとの相談では、どんな風に緊張してしまうのか、ゆっくりとお話を聞かせてもらいました。そうすると、ライバルの話やコーチの話などへと広がっていきました。
 
そしてお話を聞いているうちに、Aさんの「失敗したくない」という気持ちとか「ライバルに負けたらどうしよう」という焦りが、だんだん自分のことのように理解できるようになりました。そしてどうすればよいのかを、一緒に考えていくことになりました。

Aさんの場合は、相談を続ける中で、「どきどきしてどうなるか不安な状態」を、「わくわくしてどうなるか楽しみな状態」へと変えていく方法を見つけました。「試合で力を出せない」という辛い経験をきっかけにAさんは悩みましたが、結果としてポジティブ(前向き)に考えるスキルを身につけていきました。
 
         
         
 
 
スポーツカウンセリング:
広がる活躍の場
 

選手の話を傾聴し、その気持ちに共感し、その立場を受容する。そして選手はそのつらい経験を乗り越えて成長していく。これがスポーツカウンセリングの基本です。この知識は、体育・スポーツにかかわるさまざまな職種にも求められているようです。

まず、スポーツカウンセラー。私たちは普通、裏方に徹するので、あまり表面に出ることはありませんが、プロスポーツチームや日本代表選手を中心に、心理的サポートを行う専門家がすでに多数活躍しています。またアスレティックトレーナーの中にも、選手をサポートする際にカウンセリングマインドが大切であると言う方が少なくありません。
  彼らは、負傷した選手には体のケアだけでなく、心のケアも必要だと言います。全くそのとおりだと思います。

また教育の現場でも、カウンセリングマインドを身につけた体育教師やスポーツ指導者が求められています。
大阪体育大学スポーツ心理・カウンセリングコースの学生は、不登校状態にある児童・生徒の通う 適応指導教室でインターンシップ実習を行っています。

心理的な課題を抱えて「学校に行きたいのに行けない」と悩む生徒に接するとき、スポーツカウンセリングの基本が役立っています。またこのような実習を経て教師になった卒業生には、「話の分かる先生」が多いようです。
児童・生徒への対応の難しさが嘆かれる現在の教育現場において、カウンセリングマインドを持った体育教師が救世主になるのではないかと期待しています。
 
         
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