私は沖縄県の宮古島で生まれ育ちました。沖縄のアメリカンカルチャーに影響を受けて、好きだったイラストで服の絵を描いたりしていました。高校時代に本屋で見かけた「an・an」の表紙が、当時パリで活躍していた高田賢三(※1)さん。引き込まれるようにその雑誌を買い、家で何度も読み、パリでの暮らし、仕事ぶりに憧れて、彼の出身校である文化服装学院へ進学しました。文化服装学院は宿題がたくさんあり、アルバイトをしながら徹夜してでも提出日まで作る、届ける、やり遂げるという根性が身に付きましたね。仕事をする上での基礎の学びになりました。先生方は、デザインということに対して興味を持たせてくれたり、造形に対する啓蒙を行ってくださり、常に美意識の高まりや醸成することを教えてくれました。文化祭やショーのクォリティが高く、ファッションを表現する場がたくさんありましたね。在学中に初めて観たジバンシーのファッションショーでは、エンディングにオードリー・ヘップバーンと一緒にご本人が登場して、こんな美しい世界の入口に自分は居るんだ!と胸が高鳴りました。上野商会に入社した頃は「ワクワクする商品をタイムリーに提供する」をモットーに仕事をし、「どこにもないものを作りたい」といつも思っていました。①理想を持った現実主義者であること、②頭を柔らかくするためにアクティブな行動力と好奇心を持つこと、③美意識を高めるための勉学を怠らず、己の美学を持つことが矜持でしたね。経験を積むに連れ、作ってくれた人、売ってくれた人、買ってくれた人、商品に関わるすべての人に感謝する気持ちが生まれました。私は機能服への憧れが今でも強く、長年、アヴィレックスという米国のフライトジャケットブランドのデザインを手掛けてきたのも機能服だからだと思います。アルマーニ(※2)が「デザインは社会貢献である」と言いましたが、私はこの言葉が大好きで、デザインによって社会は良くなる、人の気持ちも前向きにしていく、デザインは社会にとって有益であると思っています。ファッションは音楽や映画、ドラマ、演劇、本、食事、スポーツのように人々の心の琴線に触れるものです。つまらないとき、嫌なことがあったとき、悲しいとき、おしゃれをすると不思議に心が明るくなる。ハレのとき、デートのとき、勝負のとき、そこには思い出の服が必ずある。洋服は人の人生にいつも寄り添い、その人の日常を彩る。ファッションには人の心を動かす力があります。一人ひとりが、その力を集めれば世の中を変えることだってできるはず。ファッションの力を信じよう!(※1)高田賢三(1939-2020)日本のファッションデザイナー。パリでショーを開催した初のデザイナー。(※2)ジョルジオ・アルマーニ(1934-)イタリアのファッションデザイナー。文化服装学院マーチャンダイジング科卒業後、ラングラージャパン㈱にデザイナーとして入社。1990年に㈱上野商会に入り、AVIREXのチーフデザイナーとして活躍。2018年より㈱上野商会 取締役社長を務める。㈱上野商会が㈱TSIホールディングスに株式譲渡したことにより、2021年より㈱TSIホールディングス代表取締役社長に就任。株式会社TSIホールディングス代表取締役社長デザインは社会貢献 関わるすべての人に感謝パリで活躍する高田賢三に憧れた高校時代背中を追って出身校へ進学アパレル経営者として環境負荷を減らし社会意識を変える私たちは今まで、無駄に商品をたくさん作り、たくさん残してきました。これは、サステナブルの「地球環境問題」の観点からも無くしていかなければなりません。アパレル市場は今後、構造的に厳しくなっていきますが、経営に求められるのはそんな環境でも確実に利益を残すこと。でも無駄なものを作らない、作ったものを残さないということは、新しいチャレンジがもっと出来るということなんです。ファッションの楽しさをお客様に伝え、喜んでもらえる服を通して社会に貢献していきたい。そしてサステナブルな服づくりを行い、環境負荷を減らしていきたいし、そういった服で次世代のコレクションブランドを展開し、社会の意識を変えていきたいですね。ファッション業界に興味のある高校生へ下地 毅さん巻頭メッセージ 活躍するプロフェッショナルから高校生の皆さんへ
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