Special interview ★ Tomohiro Watanabe確かな技術で、顧客のニーズに応えられるインフラとなる事が目標い、数をこなすことで一歩ずつ腕を磨くような毎日でした。“ダメ出し”も“満足”も、仕上がりに対するお客様の反応は直接対面で確認していましたから、お客様に鍛えて頂いて歩みを進めてきました。それでも、技術的に難しい修理の時には、GCA の先生方に相談したこともあります。GCA には ESP の枠に拘らない良い先生方がいるおかげで何かと相談しやすいと思います。お客様の大切な楽器を預かる以上、何があっても途中で投げ出すことはできません。責任感を持って修理に取り組み、お客様の信頼を得るためにも技術を磨き、「任せられる人」と満足いただけるよう精進してきました。ギター製造ではオーダーメイドの注文を多数請け負ったものの思うように仕上がらず、徹夜しながら作業したこともあります。当時は圧倒的に不足していた“経験値”を補うために必死でしたが、現在では社員にそれをやらせたいとは思わないですね。工房オープンから 20 年以上が経ち、昨年は大規模な改装工事を行いました。空調を完備したお預かり楽器専用の保管庫を設け、大型機械と作業デスクを並べて、業務の効率化を図っています。店舗が綺麗になって女性のお客様も増え、顧客満足度が上がったように感じています。工房にはプロのミュージシャンも多く来店されます。仕上がりの品質に関してはプロもアマも関係ありませんが、期日に関してはスケジュールが決まっているプロの方のほうがシビアな事が多いですね。可能な限りお客様のご要望に応えられるよう、常に社内で作業分担の調整を行なっています。 ギター技術者に興味のある高校生へメッセージ楽器修理は責任重大で、決して楽しいだけの作業ではありません。お客様からお任せいただき、納得のいく修理ができて喜んでいただく中に、仕事のやりがいを見出しています。 “東京のギター工房”として、“作りたい”でも“直したい”でも、一定以上の品質を求めたときに必要とされるインフラになりたいと考えています。創業当初はギターリペアの店舗も少なく、趣味性の高い仕事として「修理代は取らない」という人もいましたが、然るべき技術への対価をお客様から頂戴できる、確かな仕事をしたいと常に心がけています。また、楽器修理は感覚が頼りなので若手に技術を伝えるのが難しい、とも言われます。確かに、先人の作業を“見て覚える”ことも大事ですが、楽器は物理なので、技術を伝える手段は数値化できるのです。今は修理に必要な道具もあり、ないものは作ればいい。何が正解なのか解らずにこの仕事をスタートしましたが、ようやく解ってきましたので、これからはその技術や解決策をシンプルにまとめて後進に伝えたい、と考えています。20 年を経て大規模改装顧客満足度の上がる工房に然るべき技術への対価を得る確かな仕事と技術伝承を目指す
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