教授に聞く、この学問の魅力

東京造形大学 造形学部
デザイン学科 インダストリアルデザイン専攻領域

 私たちは数限りないデザインに囲まれて暮らしている。スマホや洋服、文房具、ペットボトルなど形あるもののすべてにデザイナーの働きが関わっていると言ってもいいだろう。
 東京造形大学では、モノと人、人と環境など「関係のデザイン」を考えられるインダストリアルデザイナーを育成するため「作る・考える・伝える」の三つの要素を軸に技術の伸長、デザインの本質に迫る学びを実践。また、デザイナーに不可欠とされる時代のニーズや人の価値観までも読み解く視点も養っている。
 「デザインは意味」と語る、インダストリアルデザイン専攻領域の中林鉄太郎教授に話をうかがった。

中林 鉄太郎教授

profile

1988年 桑沢デザイン研究所卒業
1988-1997年 黒川雅之建築設計事務所 プロダクトデザイン部
1997年 テツタロウデザイン設立
2005年~ 日本大学芸術学部デザイン学科 インダストリアルデザインコース講師
2006年~ 専門学校桑沢デザイン研究所 夜間部プロダクトデザインコース講師
2014年~ 東京造形大学造形学部デザイン学科 インダストリアルデザイン専攻領域 教授

領域が拡大し続けるインダストリアルデザイン
好奇心から生み出されるアイデアが次代の鍵をにぎる。

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自らテーマを発見できる学生を育てたい

インダストリアルデザイン専攻領域での4年間はどういったものですか。

 インダストリアルデザイン(以下、ID)が“工業製品のデザイン”と言われていた時代から21世紀に入り、人工物、アプリケーション、生活用品も含めて、この分野が対象としている領域はかなり拡大してきています。そうした背景がある中で、学生たちが「ドライヤーのデザインは習ったけど掃除機のデザインはできない」ということにはならないように、デザインの基本となる“作るスキル・考えるスキル・伝えるスキル”のスキルセットをバランスよく4年間で身につけていってもらいたいと考えています。
 1年次においては自分の考えた立体物や平面などを表現できるように“作る”に重点を置いた授業を行います。2年次では“考える・伝える”のスキルを少しずつ身につけていきながら、3年次でより専門的なレベルアップを図ります。
 ID専攻領域の就職活動は3年の前期くらいから、かなり積極的に動いていかなければならないという実状があります。それまでにある程度、作るスキル・考えるスキル・伝えるスキルをまわせるようになっていないと企業のインターンシップに参加しても活躍できない。社会が完成された人材を求め過ぎている、という見方もあると思いますが、今はそういう人材が求められている時代なのです。だからこそ学生たちが社会の求める人材として活躍していけるよう、自らテーマを発見して動いていける学生たちを育てたいのです。

成長するために“失敗から学ぶ”

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自ら動くためにはどういったことが必要なのでしょうか。

 学生たちは高校までの経験の中で、どうしても正解を求めたり、期待していることに応えようとしすぎています。だから失敗を恥ずかしいことと思っているようですが、スケッチがうまく描けないとか、3Dプリンターを使ってもうまく作れなかったりとか、意味のある失敗をもっとのびのびとやってほしいと思いますね。つまりどこを失敗したかを見直して、何度でもやり直してもらいたいのです。実はそこに学びの意味があるわけです。デザインに正解はありません。色んな角度から見て色んな答えがあります。私は時々、答えの方向性に近いようなことを言いかけてしまうことがあるんですが、そうすると学生たちの考えの芽を摘むことになるのでそこは気を付けています。失敗から学ぶ環境を大学の設備や教員、カリキュラムの中でどうやってつくっていけるのかということが、とても重要なんじゃないかと考えています。

「意味」=「その人にとっての価値」

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先生が感じるデザインの面白さとは?

 デザインというのはただの手法でしかないのです。その手法を使って、一体何を作るのかということを学ぶわけです。学生たちをみていると4年間を通してデザインの本質みたいなものに近づいてきている学生もいますが、ひとつの技術を学べばOKという世界ではないので、必ずしも全員がそうなっていくわけではありません。デザインを仕事としてやるのであれば、作り手側の視点だけでなく、流通や小売りに関わる人たちのことも考えながら、最後に使ってくれる人のためにどうするのか、というところにまで繋げていかなくてはならないのです。全体でみると登場人物も多く、それらをうまくまとめなくてはいけない。ここが難しいところですが、反面うまくいったときには成果も含めて、魅力として実感できるところなのではないかなと思います。
 私たちデザイナーは色・形を扱っているけれど、実を言うと我々のやっていることというのは「意味」をつくることなんです。例えば世界的なデザイナーがデザインしたバケツがあったとします。仮にそのバケツを2万円で売ったとしても、使っているうちにプラスチックが劣化したり、破れたりするとその瞬間にバケツとしては役に立たなくなるわけです。消費者としては、「バケツはバケツとして機能している間しか『意味』がない」ということなのです。
 デザインにおいての「意味」とは「その人にとっての価値」です。若い人はよく「意味ない」って言いますが、それは非常に重要なことだと思います。「意味とか価値とかは絶対的ではない」ということも踏まえてデザインを考えていくことは難しくもあり、楽しくもありますね。
 また、話は変わりますが私は高校生の時、レストランの厨房でアルバイトしていたことがあって、自分の作ったものをおいしそうに食べてくれている人たちの顔を厨房の陰から見ているのが好きだったんです。実は料理とデザインはあまり大差がないんですよ。デザインでは巨額の資金を投入してゼロから開発するっていう商品企画もありますけど、厨房では冷蔵庫の残り物でなんか売れるものを作ってという依頼もあるわけです。そういうことを考えていくと「ある条件と素材をどう料理して誰のハッピーにつなげていくのか」という点において、料理とデザインはほとんど一緒なのです。

好奇心を養うために“好きを見直す”

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この分野を目指す高校生へアドバイスをお願いします。

 人が好き、物を作るのが好き、その気持ちを動かしているのは好奇心だと思います。したがって好奇心のある人はIDに限らず、デザイナーに向いているでしょう。好奇心があれば、自分がどこか望まないポジションに動かされたとしても面白がれるはずです。自分にこの環境は向いてないと見切るよりも、「これを変えてみたら、案外楽しくなるんじゃないか?」と、面白いことをどんどん発見していける人はアイデアも沢山出てくると思います。
 もしこの分野を目指すのであれば、自分の好きなものや興味のあることを見直してみてほしいと思います。「おいしいスイーツ屋さんに行くのが好き」「虫を追いかけるのが趣味」など、それが直接的にデザインにつながるようなものじゃなくても全然構いません。「なんで好きなのか?」その好きになった理由をぜひ見直してみてください。

貴重なお話ありがとうございました。
(本ページの内容は「学びのすすめ_芸術系」と同内容です)

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