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高校生イラストコンテスト2019 最優秀者インタビュー vol.5

⑤将来のこと

――さきほど先生から、みなさんには基本的にプロ志向であるという前提で教えてらっしゃるというお話があったんですけど、ビジネスとしてはどう考えていますか。

上野 自分の好きなことで食べていくのは楽しいと思うんですけど、でも絶対つらくなる時がくると思うんですよね。美術系の仕事につきたいとは思っています。デザインはそもそもが人のためっていう感じなんでちょっと違うけど、表現者、アーティストとして自分がやりたいことをやる生き方は、本当にやりたいことが表現出来たとしても、それを人がいいと思ってくれるかわかんないし、評価されないこともあると思うんです。それだと食べていけないじゃないですか。だからって、人に合わせて、世間に合わせて、お金が入るための絵を描くのは悲しいことだと、わたしは思っていて、そのバランスを見つけるのってすごく難しいと思うんです。けど、そこは立ち向かわなければいけないところですよね。アート、芸術を仕事、お金とかそういう捉え方をするのがすごく苦しいなって思うんですけど、でも現実そうやって生きていかなければいけないわけだから。たぶん経験とか時間が必要だと思うんです。どういうバランスがいいかは人によって違うし、いつ見えてくるのかはわかんないんですけど、すべてがお金のためになっちゃうと芸術とかアートとよばれるものの魅力がなくなってしまうのかなって思います。

山田 あまり、そういうのを考えたことなかったんですけど。でも、自分がほんとに、今迷っているのは実はそこで、人気がある絵って、やっぱり人から見てもらえるし、賞とかとれるとか思うんですけど、上野さんが言ったみたいにそこを曲げてしまうのはどうかな、周りの評価に流されて曲げてしまうのはどうかなって思って、今とても悩んでいることです。

――山田さんはどういうことを意識して絵とか描いているのですか。

山田 そこも今すごく迷ってて。とにかく、自分が好きなものを描きたくて、好きなもの描けるように、デッサンだとかそういうのに目を向けて今練習をしています。

片神 わたしは結構ネットに投稿とかしているんです。長く投稿しているとやっぱり、人気のあるキャラクターとかだったらすごい評価がもらえるので、どうしてもなんか評価がもらえる方に行っちゃうんです。ビジネスで考えてみた時は流行とかにやっぱり流されちゃうと思うんですよ。特に仕事とかもらえた時は。でも、ほんとに流行っている絵とか自分がいいなって思っている絵は、流行とか関係なく自分だけの表現を確立してるっていうか、その、個性がすごく出ているので。やっぱりそういう個性も大切にしつつ、世間を見極めるのが、すごく難しいけど、ビジネスでは大切だなって思いました。

――最初は好きなことを描いて発表していても、評価されて「いいね」とかいっぱいもらっているうちに評価されることが主な目的になってしまうことがある、ということですね。

片神 そうなんですよ。

――そうならないためには具体的にどういうことを意識して絵を描けばいいと考えていますか。

片神 そうですね。人気キャラを描けばなんか結構見てもらえるとは思うけれども、でも、自分が好きなものを描いて少しでも評価もらえた方がうれしい。数字とかに惑わされずにそういう気持ちを、なんか謙虚っていうか、大切にすることかなあって思います。

――ありがとうございます。皆さんがこれだけしっかりご自身の考えや意見をまとめて、なおかつ、きちんと言葉にしているということに非常に感銘を受けました。さきほど美術部でデッサンの講習をされているという話も出ておりましたが、表現の技術のみならず、その技術を支える部分に目を向けての指導方針やお考えとかを何かお持ちですか。

横山 デッサンのトレーニングをやれば、やらない人よりも人の視線を集める作品を作る確率が高いので、美術部の活動では基礎トレーニングを重視しています。相模原弥栄高校は音楽を専門に学ぶ音楽科もあるのですが、音楽の世界でも基礎トレーニングをやる人のほうが、歌声や音色で人の心を動かす確率が高いです。そして、それは同時に社会に対する影響力があるということです。基礎的な教養、歴史とか哲学とか社会問題とか、そういう知的教養のベースをしっかりと固めた上で、表現者になって欲しいです。なぜなら、表現者は世の中を変えることができるからです。

――表現者は世の中を変えることができる、だからこそ専門領域での基礎力や知識はもちろん、幅広い分野に対する興味、教養としての知識もおろそかにすべきではないということでしょうか。
そうして見ると、確かに、上野さんの絵でも、天文学や宇宙という素材が見えています。ある程度しっかりとした知識がないとあれだけの色んなものを描けないですよね。そうするとただ絵を描くだけではなくて、プラスαの知識みたいなものも、必要になってくると思うのですけれども、美術以外で皆さんがどんな分野に興味をもっているのかをちょっと伺ってもよろしいですか。

上野 天文学とか宇宙とかは、小6くらいの暇が多かった時に図鑑読んでいたらめちゃめちゃ面白くて、はまったんです。あと音楽も好きで、でもわたしはそれほど趣味が多くないかもしれないです。

――人を描くのが好きということでしたが、描く人の背景とかって考えたりしますか。

上野 今回の絵の子どもでは細かいとこまで考えてないんですけど、でも、わたし、お話を考えるのが好きで、必要な場合はちゃんと細かい背景まで考えたりしています。

――山田さんはどうですか。色んなことに興味を持つということはありますか。

山田 何かで迷ったりする時とか、家族とかの話しを聞いてそれに興味を持つことが多いと思います。家族の誰かがどこに旅行に行ったとか、何を体験したとか。写真集とかを見るのも好きで、絵を描く時とかも、そこから何描こうかなって考えたりするはあります。

――どんな写真に魅かれますか。

山田 よく見るのは世界遺産とか。建物と自然と、そして歴史に関わりのあるところ。

――歴史ということは、単に自然が好きというよりも何らかの形で人が絡んでいるようなところですか。

山田 そうです。そういうところの写真を見たりとか、歴史とかを考えたりするのが好きです。

――ありがとうございます。片神さんはいかがですか。

片神 わたしは小説に興味があって、一応、文芸部で小説とかを書いていたりはするんです。小説も絵も、自分の気持ちとか思っていることを表現するってことは同じなんですけど、わたしの場合、小説だと結構限定されちゃうイメージなんです。たとえば“悲しい”だと、「悲しい」の一言で終わっちゃうんですけど、絵だと悲しんでいる絵を描いても、その、表情とか微妙なニュアンスで、ちょっとだけうれしいとかいう気持ちを込められる気がします。でも、小説も言葉の間の微妙なニュアンスを表現しないといけないし、絵でもそれを表現出来たらいいなって思って描いています。

皆さんの話が大変おもしろく予定より随分長い時間お付き合いいただきました。長時間にわたりインタビューにご協力いただきありがとうございました。全国大会での上野さんの活躍のみならず、横浜大会でも山田さんや片神さんの入賞で、今回のインタビューはただ最優秀の受賞者をインタビューするのにとどめず、相模原弥栄高校の美術科、美術部というところにも少し触れられたらと思い、前例のない3人の方と先生を交えてのインタビューをさせていただきました。高校生の皆さんが、抽象的で答えにくい質問に極めてしっかりとご自身の意見をご自身の言葉での回答に深く感銘を受けました。皆様のこれからのご活躍を心よりお祈りさせていただきます。本日はご協力感謝申し上げます。

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