来日外国人ビジネスの今
外国人対象のビジネスは、この先どうなる?
変革・摩擦・軋轢・誤解が、新しい市場を生むか!?
外国人労働力導入を「緩和するか?」「規制するか?」…これは昨今、世論を二分している大きな課題です。元々は難民申請の法的不備をめぐる不正残留問題や、インバウンド観光客の大量誘致とともに地方観光地で起きたオーバーツーリズムが発端といえ、似たような事象は日本だけでなく世界的な問題となっています。
そもそも留学・就労・観光目的での積極的な外国人誘致は10年前から始まりました。
バブル崩壊から20年あまり後の2015年、日本は「デフレ」「競争力の低下」「超高齢化による労働人口の減少」「やがて来るAIや自動化による産業構造の変化」に苦しんでいました。日本財団の試算によると2025年(つまり本年度)には600万人、他の機関の試算では最高で実に1000万人の人手不足の時代が来ると予測されています。この状況に最も危機感を抱いていたのは産業界でした。
そこで時の内閣、安倍政権は「女性・高齢者・障がいを持った人の活躍、高いスキルを持った外国人・危機的な状況の業界への労働力としての外国人受け入れ」などの政策を積極的に進めました。ダイバーシティ政策、入国管理法の積極的改正というものです。
また同時に日本の魅力を世界に発信し、インバウンド観光客の誘致を経済政策であるアベノミクス戦略のひとつとしました。
このように、現在までの10年にわたって日本は外国人受け入れに積極的な姿勢をとってきました。そして現在、産業界、特に第一次産業や製造業などは外国人の雇用が業界自体を支えているといっても過言ではありません。製造業にかかわる人々の数の実に26%は外国人であり、無くてはならない人材になっています。また、介護やドライバーなどの職種でも熱い注目を集めています。さらに、産業の先端部を担う、日本の競争力の根幹である技術者・研究者・開発者の世界にも、外国人が多く進出しています。
この状況は、急増した来日外国人による不法行為の増加や文化的な摩擦を生み出しましたが、そうして増えた外国人との信頼関係を早急に構築し、お互いの文化を尊重したうえで産業の立て直しをしなければ、むしろ日本の衰退が進んでしまうこともまた示しています。
「多文化社会」への移行は、避けられない
円安が呼び込む留学生の増加
一方、衰退が心配される日本に、留学目的でやってくる外国人も増加しています。一見すると、「なぜ成長国ではなく日本語を学んで日本にくるのだろうか?」と思われがちですが、これには大きな理由があります。
(参照:独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)/2024(令和6)年度外国人留学生在籍状況)
ひとつ目は、完成度の高い教育システムが影響しています。
日本が大きく成長したきっかけは、高い教育水準や質の良いカリキュラムにありました。これは依然として他国に比べて大きなアドバンテージをもっています。
ふたつ目は円安。一昔前は日本といえば物価の高い国の代表格のようなものでしたが、今や過度の円安により、他国に比べて相対的に非常に物価の安い国になりました。また国民の意識も高く、人種差別なども少ないうえ治安の良さも群を抜いています。
3つ目はアルバイト規制が他国に比べて緩やかなこと。学外での留学生のアルバイトが事実上できないアメリカや、就労時間規制の厳しいイギリスなどに比べると、日本の留学生アルバイトの規制はオセアニア諸国並みに緩やかです。
こうしたことから現在、日本は安価で気軽な留学先として世界的に人気が高まっています。文化的魅力だけではなく、教育環境と低い経済的負担も評価されているのです。
そのため日本行きを志望する学生たちと日本の学校をコーディネイトする仕事、およびそうしたスキルを持つ人材は熱い注目を集めています。
廃止される制度と生まれる制度
またこれまで、出身国では習得が難しいスキルや知識を得るために外国人に企業で学んでもらう制度として、「技能実習制度」がありました。企業は絶対的な人手不足を補うことができ、実習生はノウハウを学ぶことができる。政府は雇用・就労のコントロールができる…というものでしたが、実際はハラスメントが横行したり、不法な滞在、就労、失踪がたびたび起きたり、犯罪に走る者が続出し、制度の欠陥が国際的な批判を受けたりしていました。また、こうしたネガティブな面が排外主義の標的となってきました。導入から年を経るに従って、制度と現状に隔たりができてきたのです。
しかし、この制度自体がなくなると、産業界にとっては大きな痛手です。また少子化と人手不足はさらに進行しており、介護など訪問系サービスも危機的状況が近づいています。
そこで、これに代わる制度として2027年より「育成就労制度」に移行することが決定しました。
これにより「技能実習制度」よりも現実に即した、より近代的な制度に生まれ変わります。まずは、在留期間が5年→3年に短縮されます。これは自動化やAI導入などによる雇用状況の変化に迅速に対応するため、もうひとつは技能実習生の中でランクを作るのではなく、特定技能の在留資格取得を促す目的があります。日本語能力にもN5以上、という条件が付けられました。コミュニケーションが難しい状態のまま就労させるのを防ぐ目的です。
また受け入れた企業からの転籍が認められるようになります。ハラスメントや条件認識の相違などから帰国を余儀なくされることを防ぐ目的です。つまり「育成就労制度」の下での転職は合法的に行われることになります。
外国人を取り巻く環境の変化
新しいビジネスモデルが増えるこうした留学生の増加と育成就労制度の成立からもたらされる環境の変化により、より高度な日本語を学び、より高いレベルの日本語検定を目指す人々が増えると思われます。それは、従来からあった職業のニーズが急速に増えたり、新しいビジネスが生まれることを意味します。
さらに育成就労制度は転籍も可能となるため、例えば外国人を対象にしたキャリアコンサルタント、社会保険労務士、行政書士なども需要が増えると考えられます。
様々な課題や矛盾を抱えながらも一歩一歩国際化を余儀なくされる日本。社会システムや産業構造、国際競争力の維持などを考えると、日本人だけのリソースで国を支えるのは、もう不可能と言っていいでしょう。
その最前線には、文化や制度的な課題・問題解決のためのスキル、そして知識を持った多彩な人材が今後大量に必要とされてくると思われます。